2015.11.14「マンガのナラトロジー」について

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なぜ「ナラトロジー」か

まんがの物語論(ナラトロジー)といっても、別に、まんが作品のストーリー面だけを論じよう、という意味ではない。ここで行なおうとしているのは、まんが表現の分析において、論じられないまま「無意識の前提」となりがちな「物語」を、意識化しようという試みである。
たとえば近年の「まんが論」では、まんがの表現の「文法」を論じることや、フキダシやせりふの機能を考えること、コマ割りや構図の意義を考えること、キャラクターの働きを考えること、コマやページがどのように見られ、読まれていくかを検討することなど、多くの問いが立てられているが、そこで論じられる対象は多くが「ストーリーまんが」(またはコマ割りされた連続性のあるまんが)だ。分析にあたっては、「さまざまな表現や技法が、意味や物語を生み出し、それらが蓄積・構成され、ストーリーまんがが成立する」という方向でとらえられることが多い。
一方、逆向きの考え方として、多様な表現や技法がまんがの中で機能するのは、そもそもそれがストーリーとして受けとめられるという前提においてではないか、という立場もある。物語という磁場があってこそ、空疎な記号が意味を帯び、解釈され、表現として受けとめられるという考え方だ。
我々はまんが(=ストーリーまんが)を論じるとき、「物語」という前提をどこまで自覚しているだろうか。物語というバイアスを前提せずに、まんがの個々の表現を分析したり、意味づけたりすることは、そもそも可能なのだろうか?
そのような問題意識をもって、「マンガのナラトロジー」を探る試みは始まった。
これまでにも、先人によるまんがの物語論の試みは、なかったわけではない。しかし、そのような問題意識は残念ながら広く共有されてはこなかった。近年の文学や他メディアで進む物語論の成果を参照しつつ、改めてここで「マンガのナラトロジー」を考えてみたい。

以上のような問題意識のもと、去る2015年11月14日に、マンガ研究フォーラム「マンガのナラトロジー ―マンガ研究における〈物語論(ナラトロジー)〉の意義と可能性」が開催された。当日のプログラムは以下のとおりである。

キースピーチ:「マンガ研究の転換期について」夏目房之介
発表:「物語経験の時間性」森本浩一(東北大学大学院文学研究科教授)
コメンテーター:野田謙介、中田健太郎、三浦知志、三輪健太朗(発言順)
進行:佐々木果
(以下、パンフレットから引用)
■現代において「マンガ」という語が、多くの場合「ストーリーマンガ」を指すのであれば、マンガ研究においても「物語論」の意義はきわめて大きいはずである。むしろ、物語が前提となる中で、さまざまなマンガが成り立ち、多くのマンガ論も可能になっているという見方さえできるだろう。
■このフォーラムでは、物語論を文学のみならず他のメディアまで視野に入れて研究を行なっている森本浩一氏を迎え、「物語経験」の一般論を提示していただいた上で、マンガへの接続の可能性を探っていく。
■森本氏の発表を受け、さまざまな分野のマンガ研究者が加わっての討論を行ない、マンガ研究における物語論の意義と可能性を検討する。
■「マンガのナラトロジー」研究は、まだ緒についたばかりである。本フォーラムは、重要な論点の共有と、今後の研究の道筋を探る試みとして、関心のある方々とともに一歩を踏み出してみたいと考えている。

(佐々木果)

「ナラティヴ・メディア研究」第5号をご参照下さい

2015年11月14日のフォーラムに関するテキストは、東北大学で活動しているナラティヴ・メディア研究会が発行する学術誌にまとまって収録されています。

「ナラティヴ・メディア研究」第5号(2016年3月発行)ナラティヴ・メディア研究vol.5

・フォーラム当日の森本浩一氏の発表内容が、論文として収録されています。
・発行:ナラティヴ・メディア研究会(Webサイトに申し込み方法が記してあります)
・無料(送料のみ必要)
・東京では、学習院大学大学院身体表象文化学専攻にこの号の在庫があります。マンガ研究のゼミ(夏目ゼミ)に参加している方や関係者は、佐々木か野田までお問い合わせ下さい。(今後、研究会やシンポジウム等の会場でも配布予定です)
〈目次〉
「ナラティヴ・メディア研究」第5号について(森田直子)
ナラトロジーとマンガ研究の転換点(夏目房之介)
まんがのナラトロジーの意義と可能性(佐々木果)
物語経験の時間性(森本浩一)
マンガにおける語り手の問題と物語論の適用可能性について(野田謙介)
「マンガのナラトロジー」を振りかえって(中田健太郎)
イエロー・キッドの物語(三浦知志)
マンガ論に「物語」を取り戻すこと ―森本浩一「物語経験の時間性」を受けて―(三輪健太朗)
物語におけるリアリティ ―森本浩一氏の物語論を巡って―(赤羽研三)
あとがき(謝辞をかねて)(森本浩一)

本サイトは、この本と連動して、森本氏とコメンテーターの質疑内容をすべて文字に起こして採録しています。ぜひ、本に収録されている森本氏の論文とあわせてお読み下さい。