【研究会のお知らせ】 2016.8.4「マンガメディアの歴史性と可能性」

NM19お知らせ

ナラティヴ・メディア研究会第11回「マンガメディアの歴史性と可能性」が開催されます。

2016年8月4日(木)15:00~18:00
東北大学(宮城県仙台市)文学研究科3階中会議室
事前申し込み不要
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〈発表1〉 マンガ媒体の潜在力 ― 北澤楽天における独創的なコマ構図を巡って ―
立命館大学 博士後期課程 Matthieu Borter (マテュー・ボルテール)

マンガとは、ヨーロッパ、アメリカ、またアジアにおいて、長い歴史のある国際的な芸術形式である。その表現形式の元に、コマ割りの仕組みがある。マンガの表現形式が成立していった19世紀以降、線的な順によってコマが読書される、標準的な形式と共に、コマの配列やコマ割りの機能、また文章と図の関係性を検討する独創的な表現が現れた。グスタフ・ヴァービークの『さかさま世界』、ヴィンザー・マッケイの『眠りの国のリトル・ニモ』、またフランスの「ウバポ」による様々な作品のように、実験的マンガの流行は昔から現在にかけて続いてきた。
本発表では、「日本初の玄人漫画家」や「近代漫画の祖」と呼ばれた北澤楽天に注目する。西洋のマンガを手本とし、デビューした1895年から退職した1932年の間に、一コマの諷刺画と共に、短編のマンガも制作していた。その中に、独創的なコマ構図に基づく独特な作品が少なくない。例えば、パラレルに配列したストリップの起承転結が同時に展開するものやコマのコラージュなど、様々な表現が見られる。標準的な表現形式と比較しながら、独創的な作品における読書のプロセスを分析した上で、従来の研究に見逃された楽天マンガの価値を明確化させる。また、楽天の例を踏まえ、マンガ媒体における物語的な特徴、またその潜在力について考察する。

〈発表2〉 ファンタジーを超えて ― BLマンガが描く養子法・制度
筑波大学 特別博士研究員 Raj Lakhi Sen (セン・ラージ・ラキ)

日本ではサブジャンルのマンガとして広く知られるBLマンガは、国内外での人気の高さから、海外の学問分野でも注目を浴びるようになってきた。BLの特徴は男性同士の恋愛や恋の描写にあるが、その表現を可能としたのは女性作家である。
本発表では、第一にBLマンガがどのように東アジアの国々に受容されてきたのか、また、それぞれの国の文化にどのように影響しているのかを概観することを試みる。BLマンガはファンタジーと見なされ、このジャンルで注目されてきたが、このように多くの国や数多くの言語に翻訳されていく際にその社会や文化にどのような影響を与えているかを述べる。
第二に、BLマンガがどのように現在社会で、特に日本の固有の文化を描こうとしているのかに注目する。そのためにBLマンガの中から中村明日美子の『同級生』2008、『卒業生 冬』2010、『卒業生 春』2010、『O.B.1』『O.B. 2』2014や鹿乃しうこの『君さえいれば…』2013を取り上げ、考察の対象にする。そうすることにより、BLマンガが日本特有の養子法・制度をどのように描いているかを、養子制度と関わる条文をテクスト/ナラティブと合わせ分析し、男性同士の恋愛というファンタジーが並行に書き残される「リアリティ」、すなわち養子制度によって正当化されていくさまに注目することできる。作品群に描かれるこれらの「リアリティ」がどのように書き手によって表現され、特に養子の問題を扱うことによってラブイデオロギーや「ホモソシアル/セクシュアリティ」がどのように再生産されていくかを解明する。

問い合わせ:情報科学研究科・森田(mona@m.tohoku.ac.jp)または文学研究科・森本(xkc-m2rt@m.tohoku.ac.jp)