【資料室】 テプフェール・ブックガイドを公開

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ロドルフ・テプフェールの著作について解説する資料「テプフェール・ブックガイド」を、資料室に登録しました。
テプフェール・ブックガイド(PDF/B5判)
資料室
以下に序文を紹介します。

ストーリーまんが史におけるテプフェール

ストーリーまんがの歴史研究において、ロドルフ・テプフェールの評価や位置づけは、いまだきちんと定まっているわけではない。ここでいう「ストーリーまんが」は、日本だけではなく海外の「コミックス」や「グラフィックノベル」や「バンドデシネ」なども含めた分野全般を、包括的にぼんやりと(あいまいに)とらえているのだが、それらの歴史はいまだに各国でも研究の途上にあり、ましてやグローバルな視点でとらえたまんがの世界史研究となると、実質的にはこれから本格的に手をつけられるべき課題といっていい状況にある。
それでも、ここ2、30年ほどの間に、特にアメリカやフランスなどの国々では史料の発掘や検討が進んできており、そこでロドルフ・テプフェールの作品は、まんが史を語る上で最も重要な存在のひとつとして注目を集めてきた。たとえば、アメリカのコミックストリップ史の研究で知られるデイヴィド・カンズルは、テプフェールに関する研究書を『Father of Comic Strip: Rodolphe Topffer(コミックストリップの父 ロドルフ・テプフェール)』というタイトルで出版している。またフランスのバンドデシネを研究しているブノワ・ペータースとティエリ・グルンステンは、やはりテプフェールに関する研究書として『Topffer, l’invention de la bande dessinee(テプフェール、バンドデシネの発明)』を出版している。彼らはテプフェールをコミックストリップの父であり、バンドデシネの発明者であると考えている。
このような歴史研究は、日本のまんが史研究にとってもきわめて重要な意味をもっている。そもそも日本の「漫画」は、事実上「輸入文化」として明治期に本格的に始まり、その後も常に海外の動向に影響を受けながら発展してきた。問題を「ストーリーまんが」に絞ったとしても、そのルーツを過去にさかのぼって探っていくと、黎明期(明治期~1920年代)には、海外作品の翻訳や模倣が重要な役割を果たしていた実態が見えてくる。その後、日本国内で徐々に「ローカライズ」されていくにしたがって、日本特有の表現も生まれてきたと考えられるが、それを「日本特有」と言うためには、海外作品との比較検討が欠かせない。日本の「ストーリーまんが」はどこから来たのか? 日本らしいまんがとは何なのか? それを語るためには、どうしてもグローバルな歴史研究が必要なのだ。
テプフェールを調査することは、そのような研究の一歩である。先に述べたように、テプフェールの歴史的評価は定まっているわけではない。研究者によって歴史観は異なり、テプフェールの位置づけも異なっている。そもそも「ストーリーまんが」「コミックストリップ」「バンドデシネ」などの概念も一定ではない。しかし、テプフェールの存在を抜きにして「ストーリーまんが」の歴史を研究することも、また、無謀な試みといっていいだろう。
日本語の資料も増え始め、日本人による研究書も刊行された現在、テプフェール研究はようやく一般の研究者にも手の届きやすいものになってきている。ここを足掛かりにすれば、テプフェール以外にも視野を広げて、他の地域や時代や分野などにも研究の手は広げやすくなっていくはずである。
本稿では、以上の状況を踏まえて、まずはテプフェールのまんが関連の著作物を整理し、テプフェール作品を読む入口となる書誌情報をまとめている。